2021年2月20日 サイエンスらいおんカフェ第95回(岡部祥太さん)
※事前の広報内容はこちらです。
※宇都宮市立東図書館(サイエンスらいおん参加機関)による参考図書一覧[PDF]
2022年3月開催の公開シンポジウム「技術といのち」連動カフェ第2弾です。
今回のゲストは自治医科大学助教の岡部祥太さん。
自治医科大学で今年度取り組んでいる、
JST-RISTEX 科学技術の倫理的・法的・社会的課題への包括的実践研究開発プロジェクト-「技術構成主義」に立つ「生と死」をめぐる倫理の分析と社会的議論の啓発に向けた企画調査
のSTSグループメンバーとして活動されております。
岡部さんは普段、動物心理学や生理学を中心に研究されている一方、他社と仲良くなるメカニズムについても研究されています。人と動物、人とロボットなどの結びつきにも関心を持たれています。
岡部さんは研究上、マウスなどの実験動物はとても身近な存在と感じていますが、一方で、社会と実験動物との距離はどうでしょう?という問いかけから話題がスタートします。
世の中には動物実験について、推進派と反対派という構図が存在します。その一方、私たちの生活には動物実験の恩恵を多く受けているという側面もありますが、とても身近で、それでいて見えにくい問題でもありますね。岡部さんはもっと社会の中で動物実験に関する話がなされた方が良いと考えられています。そこで、動物実験がどのような変遷をたどり、今日に至っているのか? そして、これからの動物実験はどうすればよいのか? という話をするために、実験動物の福祉についての歴史をたどってみます。
昔のヨーロッパなどでは、犬に家畜(ロバや牛など)を襲わせる遊びがあったそうです。日本でも闘犬・闘牛などの文化が残っていたりします。そんな中、1822年のイギリスでマーチン法と呼ばれる、家畜の残酷で不適当な使用を禁止する法律が世界で初めて成立します。その後、1824年に世界最初の愛護団体である動物愛護協会がイギリスで設立されます。この頃はまだ実験動物が愛護対象になることは少なく、それはもう少し後の医学生理学研究が盛んになる頃になるそうです。
1859年にダーウィンの「種の起源」が出版され、「人の起源とその歴史にやがて光が当てられるだろう」と言及、1865年にはクロード・ベルナールの「実験医学序説」が出版、科学的実験や実験医学の基本的な考え方に言及されます。
その後、実験動物に苦痛などを与えることに対し、反対派と容認派の対立が顕著になっていきます。
1876年、イギリスでは動物虐待防止法が成立します。動物の苦痛に焦点が当てられ、動物実験を規制する一方、苦痛を上回る公益が得られる場合は実験を認めるという、功利主義的な原則を導入したものだったそうです。
時は飛んで、1959年のアメリカでは、3Rs(Reduction:削減、Replacement:代替、Refinement:洗練)と呼ばれる動物実験の大原則が提唱され、多くの国が義務化・努力目標としているとのこと。
その後、家畜動物に対する劣悪な環境が「アニマル・マシーン」と表現され、社会的関心が高まったことを受け、1965年、イギリス政府は畜産動物の福祉に関する調査委員会を設け、5 freedomsの骨子を提唱します。この骨子では「飢えと渇きからの」「不快からの」「痛み、障害、病気からの」「正常な行動を表現する」「恐怖と苦悩からの」自由が提唱され、動物虐待の防止から動物福祉の向上へと、より積極的な規制がされるようになっていきます。
一方アメリカでは、ペットが窃盗されて実験用に払い下げられたり、パピーミルがクローズアップされたりするなどの問題を経て、1966年に動物福祉法が制定、動物実験施設が登録制になったり、動物商が免許制になったりします。
その後、1970年代後半には、食肉や動物実験の事実上全廃を求める論が発表されたり、その流れに賛同する過激なキャンペーンを展開する団体が現れたりします。1981年のアメリカで起こったシルバースプリング事件をきっかけに米動物福祉法は1985年に改正、さらに翌1986年にはイギリスで動物科学的処置法という法律が制定されます。これらは、実験に関わる人材に対する訓練や免許制などを盛り込む内容となりました。
その後、現在に至るまで、各国で動物福祉に対する法制定や改正などが続けられています。その方向性としては、動物のウェルビーイングやQOLを充実させ、動物固有の生き方が発現しやすくなるように環境を整える方向へとシフトしているそうです。
話題提供は以上で、この後、感想や質疑応答などに入りました。
参加者は若干少なめでしたが、その分、密度の濃い議論が行われました。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
[文責:藤平 昌寿(とちぎサイエンスらいおん客員研究員)]