2022年2月22日 サイエンスらいおんカフェ第107回(黒沢良夫さん)
※事前の広報内容はこちらです。
今回のゲストは、帝京大学理工学部機械・精密システム工学科准教授の黒沢良夫さん。
今回も北海道や九州など、全国各地からご参加いただきました。
参加者全員の自己紹介の後、黒沢さんの自己紹介からカフェは始まりました。
現在も出身地の群馬県から車で通っているという黒沢さん。前の車は38万kmという、月までの距離を走ったそうです。
まずはじめは「音とは」。
防音や音響などを説明する上で、音の仕組みは必要です。物理的な音の伝わり方や音楽的な音の仕組み、音圧・周波数といった単位、人間にとっての音の捉え方や聴こえ方、などを説明していただきました。
参加者からはチャットで「ラの440Hzは赤ちゃんの泣き声?」などのコメントが届きます。
続いての話題は「自動車の騒音現象」。
自動車の騒音の元は大きく2つに分かれ、車体の各所の振動により音を発生させる”振動源”と、排気音や風切り音などの”騒音源”があるそうです。車内にいる人は様々な種類が混じった音を受けているそうで、まずはそれらを分離・分類することから、騒音・防音対策は始まるとのこと。
黒沢さんは企業時代、まずはロードノイズと呼ばれる、タイヤや道路まわりから発生する音の研究から始まり、やがて開発に携わるようになってからは、騒音全般を扱うようになったとのことです。
参加者からの「救急車のサイレン音は、窓を開けなくても聞こえると良いですね」というコメントに対し、車内に居る人に外部の音が入らないようにする”遮音”という観点からは、サイレン音や子どもの声などの必要な音まで遮らないようにするなどの配慮もするとのことでした。
ロードノイズひとつ取っても、道路から来る振動音であるドラミング、タイヤ内の空洞共鳴音、タイヤの溝から発生するパターンノイズなど、様々な音があるそうで、それらを分析することから研究が始まり、改善等を施すことから開発が進んでいきます。
ちなみに自動車の車内は、後席の方が車室内の空洞共鳴音が小さいそうで、静かに過ごせるそうです。
最後の話題は「静かな車をつくるために」。
近年では人や環境にやさしい車という観点から、車外騒音を軽減し、車内快適性を高めるというニーズが高まっています。
車外騒音に対する法規制、振動による疲労破壊を防ぐ耐久性、車を販売するにあたっての快適性や品質感などの商品性などの観点から、振動・騒音対策が必要とされています。
ちなみにですが、ハイブリッド車とガソリン車の騒音を比較すると、低速ではハイブリッド車の方が静かですが、50km/hぐらいになるとほとんど差が無くなってくるということです。
企業での自動車開発のサイクル内でも、音対策はもちろん重要視されており、音の成分分析などもその中に含まれて行きます。実際の自動車には、1台あたり十数kgの防音材が入っているそうです。
黒沢さんは、大学や大学院での数学・物理の研究の経験を活かして、CAE(Computer-Aided Engineering)と呼ばれる、コンピュータを使った数値シミュレーションによる設計に携わってきました。
従来ですと、試作車をつくり、実験を繰り返していきながら、設計変更を行っていきますが、そもそも試作車自体が量産ではないため非常に高額(億単位になることも)で、且つ、何度も壊したり作り直したりするため、時間もコストも尋常ではなかったとのこと。
それをCAEを活用することにより、仮想的な試作や実験がコンピュータ内で完結し、短時間に何度でも低コストでできるようになりました。現在の自動車開発の多くの部分をCAEが担っているとのことでした。実際のシミュレーションの動画も見せていただきました。
このような分野に、数学の研究が大いに役立つんですね。
最後に、楽器の話もしていただきました。
ご自身も演奏されるヴァイオリンを題材に、音圧分析をし、高額の楽器と安価な楽器の音圧レベル分布を比較すると、高額の楽器はいわゆる1/fゆらぎの分布が見られ、心地良い音を発していることが分かりました。
実際に、ヴァイオリンの楽器のどの部分がどのように振動しているのかを、楽器の各所にモニターを付けて計測すると、楽器の木の板の各所の振動の様子が分かります。振動の多寡は木の厚さに影響を受けることから、各所の厚さを調整することにより、安価な楽器でも1/fゆらぎに近づけられるのではないか?という研究を続けられています。
私自身も音楽をたしなんでいるので、別の機会にこちらの話も聞きたいなと興味を持ちました。
あっという間の90分でした。今回も、参加者のお一人のサラさんから、グラフィックレコーディングの画像をいただきました。サラさん、ありがとうございます!
[文責:藤平 昌寿(とちぎサイエンスらいおん客員研究員)]