2022年1月22日 サイエンスらいおんカフェ第106回(小泉泰英さん)
※事前の広報内容はこちらです。
※宇都宮市立東図書館(サイエンスらいおん参加機関)による参考図書一覧[PDF]
今回のゲストは、株式会社アグクル代表取締役の小泉泰英さん。
会社の代表取締役というと、ある程度年齢の行った方を想像する方も多いかと思いますが、小泉さんはまだ20代前半。前回の加藤誠士さんと共に、宇都宮大学在学中に起業され、そのまま会社を経営している、いわゆるベンチャー企業の代表というわけです。
自らを”発酵人”と名乗る小泉さんのこれまで・今・これからについて、たっぷりとお話いただきました。
理系科目、特に物理が苦手だったのに、理系に進学するよう勧められて受験し、合格されたのが、宇都宮大学農学部農業経済学科。理系出身と文系出身の学生が入り混じったこの学科で、後に会社を立ち上げる加藤さんとも出会っています。
大学は遊ぶ所だと思っていた小泉さんと、微生物は面白そうと思っていた加藤さん。仲の良かった二人は次第に発酵というものに興味を持ち、やがて二十歳を超えるとその興味は日本酒に向かっていったそうです。
夜な夜な日本酒を酌み交わしながら哲学的なことを話したり、また読書が好きだった小泉さんは、大学で多くの本に出会ったりしました。
話の端々に何となく”昭和”的な匂いを漂わせるエピソードが多く、多くの参加者の共感を得ていました。
自身を「プライドが高かった」と語る小泉さんは、様々な対話や読書などから刺激を受け、世の中に対して批判的な視点を持っていたとのこと。それはやがて実際に行動に移すこととなり、一時期、茨城の農村に移住して、地域活性化の活動をしながら大学に通っていたそうです。
やがて自らの力不足と理想とのギャップから、授業以外は外に出ないような軽い引きこもり状態となります。自問自答の末、それは自分の高いプライドが原因だったと気づき、やがて古典的な文学にハマっていったそうです。そこには「どんな偉人だって、人には言いたくないような黒歴史がある」と分かってきたことも関係していたようです。
「自分のため」より「他人のため」に動いた方が良いのでは?という観点から、再び、農家の方にお世話になりながら、イチから農業を学ぶことになります。
そこから学んだこととして、「日本の農家の半分はコメ農家だが、コメの消費量は減少している。」→「需要を新たに開拓すべきだとは思うが、理論と現場とは当然ギャップがある。」→「そうだ! 自分たちの興味ある発酵を通して、米の新たな需要を開拓できないか!?」という視点になっていったそうです。
またまたすぐに実践しようということで、加藤さんとともに、例えば、甘酒を作ってマルシェイベントで売ってみたりしたそうです。
話は少し逸れますが、小泉さん曰く「お酒は神が与えた試練、菌や微生物は神からの贈り物なのではないか?」と考えているそうです。参加者からは「菌がいるから人間が生きていられる」という意見があり、小泉さんは「菌がいるから人間が生きていられるし、逆に、人間が生きているから菌も生きている。」というお話がありました。なかなか面白い視点ですね。
話を戻して、甘酒を売っていた2人は、これが学生時代の経験として終わるのか、はたまた次の道があるのかを確かめるべく、とあるビジネスコンテストに参加し、優勝してしまった所から話は続きます。優勝賞金の100万円は起業したら受け取れるというシステムだったらしく、ちょうど大学4年で今後の進路も決める時期になっていたこともあり、それならば起業してみよう!という流れになったそうです。
親からは起業に反対されていたそうで、何度も”プレゼン”をしたとのこと。「発酵というものはゆっくりじっくり進んでいくものだ。今すぐ慌てて起業することなどないだろう。」という親御さんに対して、小泉さんは「自分は”味噌”じゃない、”納豆”だ!!」と返して、起業を認めさせたというエピソードなども面白く話していただきました。味噌は発酵スピードが遅く、比べて納豆は速い、という事実からの見事な”発酵あるある返し”でした(笑)。
親とのエピソード中に語られていた「自己中心的利他」というワードは、現在の会社の行動指針にもなっているとのこと。簡単に言うと「自分のやりたいことの先に、誰かが幸せになる、という選択をしていこう。」という意味合いで、正に小泉さんの起業精神にマッチしている言葉だと思いました。
さて、起業はしてみたものの、しばらくは鳴かず飛ばずだったようで、その原因として、人々が欲しがっているものではなく、自分たちが売りたいものを売っていたからだと、ご自身で分析されていました。やがて、次第に商品と購入者がマッチして売れていくことにはなるのですが、逆に小泉さん自身としては「発酵人としての”発酵度”が足りないな」と思うこともあり、発酵に対する学術や哲学などに時間を割きたいとも考えているそうです。
事業としては、昔からある発酵食品を世代やターゲットを変えて販売したり、麹などを使った新しい商品を開発して新たなターゲットを開拓したりしていってるとのこと。最近のエピソードとしては、麹を使ったフレーク食品を開発・販売したところ、予想をはるかに超えた売れ行きで驚くと同時に、こんなにも需要があるのかと感心した点などを挙げてくださいました。
最後に、これからについてのお話。
小泉さん個人としては、”菌との共生”がサスティナブルな社会への道と考えていること、そして、会社としては今後、海外にも出ていき、海外でも”麹”=”Kouji”が通じるような社会を作りたいと、熱い想いを語ってくれました。また、個人としてもう一つ、微生物や発酵を使った発電という”エネルギー事業”もやってみたいと。現在はまだ食品が中心ですが、「小泉さん自身は将来的にエネルギーをやりたい」と言い続けるとご本人が申しておりますので、私たちも応援していきたいと思います。
今回はスライドを全く使わず、小泉さんと私がほぼアドリブで話すトークライブ形式となったため、写真はほぼありません(ずーっと同じような画面のためです)。同時にチャット等で多くのコメントや質問などをいただき、逐次拾ったり、時々発言していただいたりしながら、中身の濃いカフェとなりました。
また、今回の参加者のお一人のサラさんから、グラフィックレコーディングの画像をいただきました。サラさん、ありがとうございました!
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
[文責:藤平 昌寿(とちぎサイエンスらいおん客員研究員)]