イベント開催報告 DSC_1955

Published on 2月 20th, 2018 | by サイエンスらいおん事務局

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2018年2月10日 とちぎサイエンスらいおん第6回公開シンポジウム「深海の科学」

2018年2月10日(土)に第6回とちぎサイエンスらいおん公開シンポジウムが帝京大学宇都宮キャンパスで開催されました。
事前告知内容はこちらです。
今回のシンポジウムについて、サイエンスらいおん運営メンバーのお一人で、第54回らいおんカフェのゲストにもお越しいただきました、帝京大学宇都宮キャンパス講師の佐野和美さんからわくわくするレポートをいただきましたので、掲載させていただきます。


2月10日(土)、とちぎサイエンスらいおんの第6回公開シンポジウムが開催されました。
テーマは『深海の科学』。地球上に残された最後のフロンティアともいわれている深海がテーマとあって、過去最高の150名超の方にご来場いただきました。
中でも、高校生のグループの方や、最前列に陣取って目を輝かせて話に聞き入る小学生のお子さんなど、若い方の参加が多かったのも特徴的でした。
当日、予定が合わず参加できなかった方もおられると思いますので、内容を簡単にレポートしたいと思います。

招待講演は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海・地殻内生物研究分野研究員の山本正浩さん。深海とは何かという話から深海探査の歴史へと話が展開していきました。
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深海と聞くと、何千メートルというすごく深い海を想像するかもしれませんが、定義的には、大陸棚が終わる200メートルより深い海のことを指します。その定義に従うと、海表面積の実に80%以上が深海にあたります。
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深海は、光が届かない暗く冷たい海です。水温は4 ℃前後で有機物も少なく、高水圧で暗黒の世界。山本さんはこのような深海のことを、「砂漠に近い」と表現しました。平均水深、約3,800メートルの海洋で、最も深い場所は、マリアナ海溝にあるチャレンジャー海淵の11,000メートル。この場所にたどり着いたことがある人類は、これまでにわずか3人。山本さんの話は、私たちをどんどん深い海へと誘っていきます。そして、ついに、深海の暗黒砂漠に聳えるオアシスともいえる存在、熱水噴出孔に話が及びます。
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深海熱水噴出口とは、海底から熱水が噴出する、いわば海底の温泉ともいえる場所です。ただ、「温泉」と「熱水」には、大きな違いがあります。地上の温泉は、100 ℃を超えることはありませんが、高水圧の海底から吹き出る「熱水」は、高水圧のために100 ℃以上になりうるのです(圧力鍋と同じ原理ですね)。山本さんのお話では、これまで観測された中での最高水温は、407 ℃だそうです。熱水は、ただ高温なだけではありません。金、銀、銅、鉛、亜鉛など、貴重な金属が多く溶け込んでいます。高温の熱水は、吹き出すとともに冷やされて固形化し、煙突状の構造物「チムニー」を作り出します。黒い煙のようなものを大量に吹き出すチムニー、いわゆる「ブラックスモーカー」の写真や動画を示しながら、山本さんの説明は続きます。このチムニーの周りには、硫黄などを餌とする化学合成細菌を体内に共生させた生物、チューブワームや真っ白い姿をしたエビやカニなどが無数に生息し、豊かな生態系を作り上げています。私たちが、テレビの深海特集などで目にする不可思議な姿形をした深海生物たちも、このような局地的なオアシスで生息する生物たちを餌にして生き残っています。
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ここで、山本さんは、地球上の生物を3つに分類しました。その分類方法が少し変わっていたので紹介します。
まず1つ目は、「太陽を食べる」生物です。これは、太陽の光の下で光合成を行い有機物を生産する生物のことで、植物や、植物を食べる動物が含まれます。私たち人間も、この「太陽を食べる」生物に分類されます。
2つ目は、「地球を食べる」生物です。これは、先ほど紹介した、チムニーの周りで地球内部から噴き出してくる硫化水素やメタンなどの化学物質を利用して化学合成を行う生物のことです。少し生物に詳しい人なら、そして深海に興味を持っている人なら、何度か目にしたことがある分類です。地球の内部から作られる化学物質を餌にするという点で、「地球を食べる」と分類されました。会場に集まった深海好きの人たちも、大きく頷きながら話に聞き入っています。
しかし、その後登場したもう一つの分類に、多くの人が度肝を抜かれたのではないかと思います。山本さんが示した第3の生物は、「電気を食べる」生物だというのです。これこそが、山本さんのご専門。話はどんどん深まっていき、深海で行われている発電を測定するという、山本さんたちの研究内容についての解説が続きます。
深海に聳え立つチムニーの壁は、金属を豊富に含んでいるため、非常に電気をよく通す物質で形作られています。地球内部から湧き上がってきた硫化水素は、この壁を経由して、電子を失い、イオンに分離します。一方、チムニーの外側の海水は、常に電子を欲している状態で、硫化水素が放した電子を受け取っています。このようにして、チムニーの周囲では、電子のやりとりが行われ、常に電気が発生しているのです。山本さんたちの研究グループは、実際に、チムニーの周りで電位を測定し、発電が行われている事実を確認しているそうです。
それと同時に、チムニーの周囲に生息するある種の微生物は、電子を直接取り込んでエネルギーを作ることができるというのです。この話には、物理や化学を専門的に学んできた大学教員の中からも驚きの声が漏れました。電流を直接食べてエネルギーを作る生物が存在する。つまり、直接電気を食べる「電気合成生物」という第3の生産者が、暗く冷たい深海底に豊かな生態系を作る手助けをしているというのです。
もうワクワクが止まりません。
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山本さんは、何度か、ウルトラマンに登場するウルトラ怪獣の例をあげながら、大人たちをまるで子供のような好奇心溢れる表情に変えていきます。
第3の生産者の存在は、生物の進化の謎を解く鍵となる大きな発見につながるだけでなく、光が届かない遠い惑星、例えば木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスにも、生命が生存している可能性がより一層高まることにもなります。
山本さんたちの研究はまだ始まったばかり。深海での電気合成生物の研究には、これから本格的に取り組んでいく予定だそうです。
まさに最後のフロンティア「深海」。今後の研究にますます目が離せなくなりました。
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シンポジウムでは、この後、コーヒーブレイクを挟んで、栃木県立博物館研究員の河野重範さんと帝京大学理工学部教授の篠村知子さんの講演が行われました。
河野さんの講演では、海から遠く離れた栃木県もかつては海の底だったという話が、実際に発掘される化石の種類などから丁寧に説明されました。栃木県南部には古生代、中生代の地層が、また宇都宮市周辺など中部から北部にかけては新生代の地層が広がっているそうです。古生代の地層からは、サンゴやウミユリ、三葉虫の化石などが発掘されています。新生代の地層からは、複数のクジラの化石が見つかるそうです。それでも、大型の化石の発掘はそれほど多くはないということでした。特に、1億5000万年前くらいの中生代の地層は、化石が出にくい硬い地層だそうで、ほとんど化石が見つかっていません。中生代の代表的な生物であるアンモナイトの化石は、益子町と佐野市から1個体ずつ、わずか2例しか発掘実績がない貴重なものだそうです。およそ30年に1個の割合でしか見つかっていないこれらの化石は、「まだまだ探せば見つかるはず」とのことで、化石発掘への夢を膨らませる講演でした。
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続いて行われたバイオサイエンス学科の篠村知子さんの講演は、自身が研究対象としている微細藻類の美しい写真から話が始まりました。特に、20μmから30μmほどの小さな珪藻類はケイ酸ガラスの殻に覆われています。正三角形、正六角形など、およそ生物が作り出すとは思えないような正確な形状をした美しい骨格は、それを並べてアートにする人が現れるなど、昔から多くの人の興味を惹いてきたそうです。
微細藻類は、海水中にも淡水中にも暮らしている生物で、一般的には、植物プランクトンと呼ばれています。招待講演の山本さんの言葉を借りれば、「太陽を食べる」生物のひとつです。動物プランクトンの餌となり大型生物を支える生物であるだけでなく、何億年も前に死んだ微細藻類の死骸は、石油となって我々の生活に欠かせないものになっています。現代でも、バイオ燃料の原料として、微細藻類が注目を集めています。
そんな中、篠村さんが没入している微生物はクンショウモという緑藻の仲間だそうです。宇都宮美術館近くの、うつのみや文化の森の池「森の池」にも生息する身近な動物であるクンショウモは、小さな個体がたくさん集まって群体を形成しています。
生活環(生物の繁殖の仕方)が変わっていて、まず核だけが大量に分裂し肥大化、そのまましばらく時を過ごし、ある時期、細胞質が急速に分裂して無数の個体に分かれるそうです。クンショウモもまた、脂質を溜める性質があるそうで、研究対象として大変魅力的な生物とのこと。時間の関係で、詳しい研究内容まで聞けなかったのが大変残念です。オープンキャンパスや学園祭では、もっと深い内容まで聞けるかもしれませんので、研究室を訪ねてみたいと思いました。
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以上、簡単ですが第6回の公開シンポジウムのレポートでした。
来年度のテーマはまだ未定ですが、来年度も魅力的なテーマで、皆様がワクワクを感じられるシンポジウムになるといいですね。


以上、佐野さんからのレポートでした。
今回のシンポジウムは6回目ですが、過去最高のご来場をいただきました。
その他のパートのご紹介です。

会場案内。
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今回もロビーコーナーを設け、JAMSTEC・栃木県立博物館・帝京大学篠村研究室からの展示、宇都宮市立東図書館による関連書籍の閲覧・貸出を行いました。
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帝京大学・冲永佳史学長からの開会挨拶と、帝京大学・渡辺博芳教授によるサイエンスらいおんの活動紹介。
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休憩・コーヒーブレイクです。
小さなお子様から年配の方々まで、幅広くお越しいただきました。
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シンポジウム最後のトークセッション。
来場者の増加に伴い、質問なども多数いただき、ごく一部しかご紹介できませんでしたが、ご協力いただきました皆様、ありがとうございました。
栃木県総合教育センター・植木淳主幹による閉会挨拶で、シンポジウムは幕を閉じました。
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閉会後にはロビーにて意見交換会が開催されました。
実は、登壇者・スタッフなどと一番触れ合えるのがこの場であります。
今回も各所で、様々な話題に花が咲きました。
来場者はどなたでもご参加いただけますので、ぜひ次回は足をお運びください。
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ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。
また次回のシンポジウムをお楽しみに!!

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